週刊キャプロア出版(第6号): あなたの隣の非日常~ちょこんと座りしものの名は~

¥300

今号のテーマは「あなたの隣の非日常~ちょこんと座りしものの名は~」である。週刊キャプロア出版のリーダーをやる、このテーマでやる、と我が妻氏に述べたところ「なぜおまえは他の参加者を置いてけぼりにする自己満足なテーマを作るのか。協調性はないのか、人を思いやる心はないのか!」とさんざんに痛罵された。しかし、このテーマには洗面器のごとき深い意味があるのだ。その意味を解き明かしていきたい。

説明

今号のテーマは「あなたの隣の非日常~ちょこんと座りしものの名は~」である。週刊キャプロア出版のリーダーをやる、このテーマでやる、と我が妻氏に述べたところ「なぜおまえは他の参加者を置いてけぼりにする自己満足なテーマを作るのか。協調性はないのか、人を思いやる心はないのか!」とさんざんに痛罵された。しかし、このテーマには洗面器のごとき深い意味があるのだ。その意味を解き明かしていきたい。

私の生まれは山形県の市街地である。しかし、市街地とはいえどもその規模は都会とは比較できないほど小さく、10分も歩けば林や小川、竹藪に着くような環境である。まぁ、片田舎という表現が一番近いかもしれない。

今から思えば林も小川もすぐに行けるようなところは人間の手が入った「人の住むエリア」なのだが、子供にとってはまさに自然という市街地とは別なエリアだった。そして、そのエリアは子供たちの格好の遊び場だったのである。私の中で隣接する非日常の原風景とはこの林だ。

そして、その林で不思議な経験をしたことがある。一人で桑の実をあつめて食べていたとき、いつの間にか「何か」が隣にいた。白いシーツをかぶったこびと、というのであろうか。当時は140cmくらいの身長の私の腰のあたりの大きさであり、ほんとうにちょこん、としたモノであった。

あまりに自然に隣にいたので驚く暇もなく、まじまじとソレをみたことを覚えている。そして、何の前触れもなく現れたのと同様に、何の前触れもなく消えた。残されたのはあっけにとられた私だけだった。あの時、あの空間は、間違いなくこの世界の摂理から外れた私にとっての異世界であった。

突然現れて突然消えた「モノ」は(少なくとも同じ形のものは)それ以降見ることはなく、あれはなんだったのだろうか、と今でもふと懐かしさとともに思い出すのだ。

そして、視点を34歳の私に戻す。通勤電車に乗っているくたびれたおっさんがスマホで何かをポチポチ打っているみっともない姿が地下鉄のガラスに映っている。まったく見慣れた東京の景色だ。しかし、ふと思う。こんなに人がいるのに、私が知っている人はいない。毎朝同じ時間に電車に乗るというのに、いつも電車に乗る顔ぶれは違う気がする。たまに「この人はみたことがあるな」と思っても、その人の名前も知らない。同時に彼らも私の名前も知らないだろう。

しかし、この電車に乗り合わせた一人一人の背景には彼らの「日常」が広がっている。ある人は家族を養うという日常を、隣の若者はバンドマンを目指すという日常を、その隣の女性は結婚を前にするという日常を抱えているかもしれない。しかし、それは私には知る由もないことだ。そして、彼らも私の日常を知らない。非日常というものが「私の知らない世界」であるなら、この電車は非日常が隣にあふれているのだ。

改めてあの林のモノを思う。あれは確かに私が知りようのないモノだった。しかし、この都会にあふれた人たちと何が違うのだろうか。気がついたら隣にいて、気がついたら消えていく名も知らない人々。私が知りようのない日常を抱えた、私にとって非日常な人々。日常とは「私」の中にしかなく、それは暗闇の中を豆電球で照らすような範囲しか見えないのかもしれない。

あの林のモノはその頼りない明りの端をさっと通り抜けだけだったかもしれない。この電車で乗り合わせた人たちも同じだ。なんだ、あのモノは何一つ不思議なことはない。それは私を横切った非日常の一つの形でしかなかったのだ。

日常を想う。私が帰るべき家。そして妻。名前と形はよく知っている人。でも、その知っているはずの人すら、私の知らない「非日常」を生きている。私が入れない領域はある。彼女もまた非日常の闇の存在なのだそうか。

だから、私は言う。「あんたもよくわからん人だ」
妻は答える。「あんたほどじゃないよ」と。

そうだ、私たちは非日常と、日常を抱えて生きている。そこに在りしものの名前は。

週刊キャプロア出版とは?

誰もが参加できるティールな出版グループ、キャプロア出版は上下関係も、売上目標も、予算もない!?従来のアプローチにない新しい試みから生まれたグループです。
出版に関する会議がFacebookのメッセンジャーグループ(キャプロア出版会議!)で交わされています。気軽なやりとりで、24時間いつでも好きな時間に発言が可能になっています。その時々のメンバーが気になった点を相談、新しいアイデアも議題として提出されます。そして、その時のタイミングで居合わせたメンバーによって会議が進行します。
出したい本を自分達で出せる組織がキャプロア出版。興味がある人はぜひご連絡ください。

書籍情報

週刊キャプロア出版編集部 (著), くらげ (著) 形式: Kindle版

登録情報

  • ASIN ‏ : ‎ B07DVCZ9GX
  • 発売日 ‏ : ‎ 2018/6/18
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • ファイルサイズ ‏ : ‎ 3.6 MB
  • Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) ‏ : ‎ 有効
  • X-Ray ‏ : ‎ 有効にされていません
  • Word Wise ‏ : ‎ 有効にされていません
  • 本の長さ ‏ : ‎ 104ページ

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